『鋼』でヒュハボ Summer Good day ~ 水も滴る...? ~ [二次創作SS]
お待たせしました?
暑い夏場、熱せられたアスファルトからの照り返し、ってキツイですよね?
まぁ、例えその足元が整備された土だったとしても、暑いのは暑いんですけど...(笑)
え?何が言いたいかって?
要するに、軍の演習場だって同じようなもの・・・そんな時に、打ち水、っていいと思いませんか?
そこにどんなハプニングが待ち構えているか、なんて普通は考えないですけどね(爆)。
前振りはこんな感じで・・・興味のある方は、例の如く『続きを読む』からどうぞ♪
( ああ、それにしても・・・オレってば、どうしてこんな事になってるんだ・・・? )
ハボックは濡れそぼった自分の髪を、半ば涙目になりながらも、ガシガシとタオルで拭いているフュリー曹長の顔を呑気に眺めながら、そんな事を考えていた。
――― そう、事の起こりは昼食前の中休みにまで遡る。
Summer Good day ~ 水も滴る...? ~
初夏の日差しの中、陽炎の立ち昇る演習場で、ケイン・フュリーは水撒きをしていた。
本来なら、ここの管理は下士官訓練を担当しているジャン・ハボック少尉であったが、彼の少尉は先だって『赤の師団』の掃討作戦の際、偵察指揮を執っていたマース・ヒューズ中佐を庇い右肩を被弾し、現在は軍病院に入院中であった。
それ故、その間に於ける演習場の管理は彼、ケイン・フュリーに割り当てられていた。
初夏では在りながらも、既に容赦のなくなりつつある日差しに、フュリーは目を細める。
そして ―――
「ダメだよ、ブラックハヤテ号。今は、仕事中だから、遊んでやれないよ?」
――― 足元にじゃれつく仔犬にそう話しかけつつ、フォースの先を遠くへと向けた。
途端に、ブラックハヤテ号がその水の先を追いかけるように走り出す。それを目にしたフュリーが思わず笑みを零した。
( うわ~、なんか和むよなー、曹長見てると! )
遠くでその光景を眺めていた下士官達が、お互いを突き合いながらコソコソと囁き合う。
( まったくだよな~。なにせ最近は、ハボック少尉が入院してて、ここんとこ『華』が少なくて適わねーからなー! )
そう・・・彼ら下士官の間には、何気に-例えそれが男であっても-東方司令部に於ける『華』と云うべき存在があった。
なにしろ、軍内部での女性士官の比率は、ここ最近は増えたとは云えやはり限られている。
しかもそのうちの半数以上は、何故だか既に彼らが司令、ロイ・マスタング大佐のお手つきと云う反則状態。
故に、その外観云々と云うよりは、心意気や彼ら下士官への声かけなどの気遣いの如何によって『華』と呼ばれる存在が彼らの間に生まれるのは然り、である。
しかもその中にあってでさえ、ケイン・フュリー曹長と云う存在は『特別』だった。
何故なら、彼は下士官である自分達に一番近い地位にいるだけでなく、同時に殺伐とした軍内では癒し系とも言える容姿と存在感を持っていたからである。
「まったく、ブラックハヤテ号ときたら、しょうがないな~。」
ニコニコと笑いながら、水と戯れるように走り回る仔犬を、フュリーは水撒きを続けながら見遣る。
そして、はじめこそは当初の目的に沿ってのみ、真面目にフォースを動かしていたが、その動きは次第にブラックハヤテ号を遊ばせるように動き始めていた。
そして、最後にお終いとばかりに、フュリーは自らを中心としてフォースの先端をグルリと弧を描くように回転させ・・・ ―――
「うわっ、ぷ!?」
次の瞬間、フォースの先から迸った水が、ちょうどフュリーの背後から彼に声を掛け様としていた人物を直撃した。その人物を見た瞬間 ――― ケイン・フュリーの眼鏡の奥の大きめの瞳が、これまで以上に大きく見開かれる。
そして彼は、そこに本来居るべき筈のない自分の上官を見出すと、唖然として手の中のフォースを取り落とした。
「ええ~~~っ、ハボック少尉!?ど、どうしてここに!」
そう・・・そこには、本来はこの演習場を管理しているが、現在は入院加療中のはずのジャン・ハボック少尉が、未だに包帯でグルグル巻きにされ痛々しい様相を呈する腕を右肩から吊りさげ、尚且つびしょ濡れ状態になって立ち尽くしていた。
「うへ~。ひで~な~、フュリー?もしかして、お前オレになんか恨みでもある、とか?」
そう言って笑うと、ハボックは水に濡れて重くなった前髪を目元から振り払うべく首を振る・・・と、その先端から大気中に舞った水飛沫が夏の日差しを弾き・・・ ――― そしてそれは同時に、ハボックの金色の髪に反射してキラキラと光を弾いて瞬きながら散っていった。
( あ・・・/// )
フュリーはその光景を、まるで何かに魅入られたように目をしばたたかせながら、声もなく見守ることしか出来なかった。
そんなヒュリーの様子に気付くことなく、ハボックは水に濡れ皮膚に張り付いたアンダーシャツに顔を顰めると、その襟元から指を挿し入れて張り付いた布を引き剥がすように手前に引いた。
その襟元からは、暫く病室から抜け出すことが出来ず、そのため日に当たることさえなかった白い胸元が覗き・・・一連の動作を目で追っていたフュリーは、思わず紅潮した。
「ん?・・・どーした、フュリー?」
そうこうしている内に、ハボックは漸くフュリーの様子が可笑しいのに気づいた。
機械を扱わせれば東方司令部内でもその右に出る者はいない、と言っても過言ではないケイン・フュリー曹長は、同時に気が小さく怖がりでもあり・・・ハボックはその事を普段から何気に気に掛けていた。
そのため、もしや自分が先程フュリーに向って、からかい混じりに言った言葉を気に掛けて、声も出ない状態にあるのではないかと心配したハボックは、首を傾げながらその顔を覗き込む様にしてフュリーに近付く。
勿論ハボックにはその行動が、相手を更に慌てさせることに繋がるとは思いもよらなかった。
しかし、当のフュリーはと云えば、自分の紅潮した顔を覗き込むようにして近付く上官に気付いてパニック一歩手前まで追い詰められていた。
このままでは、自分が一体何を言い出すのか分からない、と混乱した思考のまま固まっていたフュリーに、その時漸く救いの手が差し伸べられる。
それは「くしゅん。」と可愛らしい擬音を伴って、近付いてくる上官の口許から零れ落ちた。
「!?・・・はっ、ハボック少尉!!すみません!大丈夫ですか?!まっ、まさか今ので風邪を引かれたとか!?」
フュリーは、先程までとはまた違った意味で慌てふためきながら、自分用にとズボンのベルトに挟み込んでいたタオルを取り出すと、そのタオルでハボックの頭を包み込むと、ガシガシと水気を拭き始めた。
――― 勿論それは、普段では考えられないような光景だった。
何故なら、マスタング大佐直属の部下の中でも最も小柄なフュリー曹長が、その逆に東方司令部内でも一、二を争う長身のハボック少尉の頭を抱え込むようにしている訳で・・・ それはハボックがフュリーを覗き込むようにして屈み込んでいたから出来た事に他ならなかった。
「あ~、フュリー?・・・そのぉー悪いけど、この態勢はオレ・・結構辛いんだけど、な?」
ハボックはやや困惑してそう呟くと、タオルでゴシゴシと自分の髪を拭くフュリーの手を、唯一自由の利く左手で掴んで止めると漸く腰を伸ばした。
そこから生まれた互いの身長差に、フュリーはホッとして手元に目線を落とす。これなら、例え自分がどんな表情になっていても、長身の上官にそれがばれる事はないだろう。
そうして安堵の籠ったため息が、フュリーの口許から零れた瞬間 ――― それは起こった。
そう・・それは、この状態の元凶を作った二つの存在を、フュリーとハボックの二人が忘れていた事が引き金となった。
その元凶は、いつの間にかフュリーの足元まで近付き、今まで自分と遊んでいたはずのもう一つの元凶に、まるでじゃれ付く様に飛び掛った。不幸な事に、その元凶はまだ仔犬とは言えそれなりに体重があった・・・そしてもう一つの元凶は、地に落ちたとは云え、その勢力を決して弱めていた訳ではなかったのだ。
そして、偶然にも ――― と云うか、この場合は必然的に ――― 勢力を保ったままのフォースの先端から勢いよく溢れ出した水は直ぐ傍に立ち尽くす獲物 ――― 即ちハボックとフュリーの二人――― に猛然と襲い掛かっていった。
咄嗟の事とは云え、ハボックの行動は素早かった。冷たい・・・と認識した次の瞬間、ハボックは未だに掴んだままのフュリーの右手を引くと、フォースの先端から溢れ出した水から庇う様にして腕の中へと抱え込む。
ハボックのその咄嗟の行動に、フュリーが混乱したままのその体勢で硬直した。
そして、時間にして、約20秒あまり ――― 遠くで、その状況を見るとはなしに目撃してしまった『傍観者』の手によって、フォースの元栓である水道の蛇口が閉められるまでの間 ――― ハボックはフュリーを庇う様に腕の中に抱え込んだままだった。
やがてその光景を遠目にしながら、唖然としたまま固まっていた下士官達が、ハッとすると同時に慌てた様に上官に向ってタオルを抱えて走り出したのは、それからまた暫く経ってからの事である。
――― こうして再び、ハボックはびしょ濡れ状態になった。
その後のハボックにとって不幸中の幸いは、自分が庇った事でフュリー曹長はそのシャツが少し濡れた程度で済んだ・・・という事。その程度なら、未だ療養中扱いとなっている自分とは違い、他にも仕事を抱えているフュリーには特に支障がでないだろう。
( まあ、オレが休んでる所為で、随分と他の奴らの仕事量を増やしてるからなぁ。)
等と考えつつも、ハボックが現在『問題』と考えている事は、そんな事ではなかった。
( それにしても・・・おかしい。)
ハボックは、困惑の面持ちで自らが陥っている現状を振り返り・・・首を傾げた。
( ・・・どうしてオレの周りは、こんなにも慌ただしい状況になってるんだ・・・? >汗 )
そう・・・ハボックは目下のところ、もの凄く当惑していた。
彼の周りでは、下士官達が右往左往しながらタオルにドライヤー、着替え一式に果ては救急キット――― 等々を掻き集めている。
そうしてハボックの傍らには、大丈夫だと請け負う自分に向って『そのままでは絶対にダメです!』と何時になく強気な発言でハボックを押しきり、結局はシャワーを浴びさせる事に成功したケイン・フュリー曹長が、半ば涙目になりながらも再びガシガシとハボックの髪をタオルで拭いていた。
( まあ、確かに身体は兎も角、肩を挙げるのが辛いこの状況で髪を拭いてもらえるのは正直言ってもの凄く助かる・・・だけど、なんか妙な視線をあちこちから感じるのは、気のせいじゃー・・・ないな ――― う~ん、殺気じゃないからまあいいか? )
ハボックは、自分が置かれてしまった状態にため息をつくと、本来自分がここ -東方司令部- にやって来た目的について考える事にした。
『赤の師団』との戦闘で被弾し、現在入院加療中のハボックではあったが、実のところもう既に入院している必要性がないまでに回復していた・・・そう、確かに自分は右腕を撃たれた訳だが、傷の方はもう殆ど瘢痕化しており痛みの方もさほどない。
しかも撃たれた右は確かに利き腕ではあるが、自分は別に『全く』左が使えない訳ではないのだ。
日常生活程度ならばなんら支障なく行える。
しかし、毎日の様に仕事を抜け出しては病院まで見舞いにやって来る上司のことを考えると、自分が退院し自宅療養になった暁には、同様にそれこそ毎日の様に今度は自宅の方へ押しかけられかねない――― だが、それだけは絶対阻止しなければならない、と云うのが、ハボックが退院に踏み切れない理由の一つだった。
しかし、いい加減入院生活にも飽きた・・・そろそろ仕事に復帰する頃合いだろう・・・別に仕事が好きでしたい、と云う訳ではない。
しかし大佐ほどではないが、時折見舞いに訪れてくる同僚達が、日々やつれ果てていく姿を見るのは精神的にもそろそろ限界だった。
そうして今日、ここ-東方司令部-へ来て自分の代わりに演習場の管理をするフュリー曹長を見た時流石に心苦しく感じたハボックは労いの言葉をかけようとして・・・現在に至る訳だ ――― まあ、却って迷惑を掛けてしまった気もする・・・が、同時にハボックが被害者なのも事実である。
やがて、ハボックの髪を乾かしきったフュリーは、今度は腕の消毒に取り掛かろうとして下士官の一人が持って来た救急キットを開けた。
そうして暫くゴソゴソと中を漁る ――― が、肝心の消毒薬が見当たらない。
「すみません、ハボック少尉!消毒薬が入ってなかったので、いま新しいのを取ってきます!!」
「ん~?わざわざ取りに行かなくても、オレが直接医務室に行けばいいだけの事だろ?・・・世話掛けたな、フュリー曹長。後は自分で何とかするから、もう仕事に戻っていいぞ?」
慌てて医務室まで走り出し兼ねない勢いのフュリーに、ハボックは苦笑しつつ下士官達が用意した着替えに片袖を通しながら立ち上がる。
「えっ!?・・・あの・・・」
そんな自分を見上げて来るフュリー曹長の顔に浮かんだ戸惑い、とも違う複雑な表情にハボックはおやっ、とした様子で首を傾げる。
「どーした、フュリー?さっきの件だったら、気にしてねーし大丈夫だって・・・第一この程度で風邪ひいたり、傷が悪化するほどオレって、軟じゃねーぞ?」
「あの・・・じゃあ、怒ってませんか?上官にあんな風に水かけちゃって、僕・・・」
そう言って、恐縮したように俯くフュリーに、ハボックの口許に苦笑・・・とはまた違った笑みが浮かぶ。先程から、なにやらとても心がぽ~っと温まるような、そんな不思議な感覚 ――― だからだろうか・・・ハボックは普段なら決してしない様な気安さで、フュリーの頭に手をやると、くしゃくしゃとその髪を掻き混ぜる。そうしてから、全開の笑みを浮かべて告げた。
「あ~、あれは別にワザとじゃぁないだろ?・・・なら、オレの代わりに演習場の整備までやってくれてるお前さんに、感謝こそすれ怒ったりするほど料簡狭くないぞ、オレ?」
悪ィな、ホント ――― そう言うと( 実は真っ赤になってしまった顔を隠すため )俯いたままになっているフュリーを残し、ハボックはその場を後にした。
「・・・で、なんで中佐がここにいるんスか?」
ハボックが『先生~、お世話になりに来たっスよ~。』と、そう言いながら医務室の扉を開けると、何故だかかそこには ――― 中央裁判所勤務の佐官 ――― マース・ヒューズ中佐がおり、そして「おっ、少尉、遅かったな~?」と言って笑顔で挨拶を寄越しながらも、何気に不機嫌そうな表情を浮かべたまま、椅子にだらしない様子で腰掛けていた。
「ん~?そりゃ~軍医のかわりにだな、お前さんがここに来るのを待ってた訳だ。」
そうして、何事でもない、と云った風情でそんな爆弾宣言を言ってくれました。
「ええ~っ!!ど・・・ど~して、オレがここに来るって分かったんスか!?」
「ああ・・・外で見てたからな。」ハボックが、その答えに思わず身を引く様に一歩後退する、とヒューズがニヤリと意地悪げな笑みを浮かべて外を指し示した。「 ――― お前が部下と一緒になって水浴びしてるのを・・・な。」
( み、見られてた・・・って、全部? )
ヒューズが淡々とした口調でそう続けるのを、ハボックは冷や汗混じりの様子で見遣ると、この場をいま直ぐ後にしたい誘惑に駆られながらも ――― 勿論そんな事をした暁にはどんな目に遭わされるかは保証の限りではない ――― 仕方なさそうに、椅子に座るヒューズの前へと歩を進めた。
「あれを水浴び・・・って称するには、なんか語弊ないッスか?」
「ん~、そっか~?俺にはえらく楽しそうに見えたがな?」
ヒューズがそう言いながら、ハボックに向って目線でもって『ほら、腕みせてみろ。』と、合図を送ってくる。ハボックは、それに対し仕方なさそうにため息をつくと素直に片袖だけ通していた上着を脱ぎ、ヒューズの向かいにあった椅子の背にそれを掛けると自分もまた椅子に腰掛ける。
「・・・あのですね~、中佐?オレだって、まさかあんな所で水浴びする羽目に陥るなんて思っても見なかったッスよ。」
ハボックはそう愚痴を零しながらも、腕に巻いた包帯を器用に外していくヒューズの手元に目を遣り、その左手の薬指にある指輪を目にすると僅かに視線を逸らした。が、しかしその先にあったヒューズの顔に浮かぶ見慣れぬ表情に気付き ――― 首を傾げた。
( え~っと、なんか・・・怒ってる・・・とか? )
そう・・・ヒューズは、何気に不機嫌、否、寧ろ『怒り』を感じていた ―――
あの時の自分は、何時もの様に親友の所に書類と命令書を届けに来ていた。そして、本来ならば未だ入院しているはずのハボックの姿を東方司令部内の敷地で見かけ、声を掛けようとした ――― が、結局タイミングを逸して演習場までついて行き、演習場の整備をしていた下士官とハボックとの間に起きた事故を偶然目撃する事となった。
そのヒューズもよく知る下士官を、ハボックが笑いながら許し、その後濡れた髪をタオルでガシガシ拭かれる羽目に陥る姿を遠くで眺めながら、ヒューズもやれやれと苦笑する。
そう、別にそこまでは良かったのだ ――― その後に起きたもう一つの事故で、咄嗟に部下を庇ったハボックのその姿を見るまでは・・・ ――― その光景を見た瞬間、冷静なままの自分は元凶である水道の蛇口を閉めてはいたが、その口許にはつい先程まで浮かんでいた柔らかな笑みはもうなかった。
そこにあるのは、冷たく細められた瞳に訳も分からぬ怒りにも似た感情を浮かべる自分と ――― その自分が抱いたであろう『独占欲』と云う名の醜い感情に、自らを揶揄しながらも冷笑する様に歪んだ口許だけ・・・
――― まったく、どうにかしている・・・自分はいつからジャン・ハボックと云う存在を、まるで『自分だけのモノ』のように思っていたのだろうか?
「あのォ・・・もしかして、中佐・・・その、なんか怒ってないッスか?」
ハボックの腕の傷を、そんな事を考えながら黙々と消毒していたヒューズは、おずおずとそう尋ねてくるハボックの声に、物思いから醒めると、心配そうに覗き込んできる蒼瞳を直視する。
「よく分かったな。」ヒューズが憮然としてそう答えると、ハボックの表情が今にも泣きだしそうに歪んだ。「 ――― しかしまあ、それはお前にじゃないから、安心しろ。」
――― そう・・・このヒューズが感じた『怒り』は他でもない『自分自身』に向けたもの ――― ああ、だからそんな風に困った様に自分を見つめるのはやめにして貰いたい・・・
ヒューズはそこで一つ大きくため息をつくと、気を取り直して何時もの様にニヤリと相好を崩し、ハボックの未だに湿気の残る金色の髪に指を絡めたまま「ホント、愛されてんな、お前。」そう言って心からの笑顔を浮かべてみせた。
ヒューズのその言葉に、途端にハボックの目が丸くなり・・・次の瞬間にはその顔が紅潮していく。
ヒューズは、それを見遣るともう一度満足そうな笑みを浮かべ ――― そのまま、ハボックの口許に自分のそれを重ねた。
――― 中佐は、ずるい。
そんな言葉が、ハボックの脳裡にポカリ、と浮かんで・・・そして、消えた。
誰に対し、何を一体怒っているのだろう?
――― つい先程までそう思って、ヒューズの様子を窺っていたハボックの、その機先を制するように自らの唇に落とされた口付けに、ハボックははじめは躊躇いながらも・・・しかしやがては積極的に応じていた。
そう、ヒューズは何時だってこうして、自分の思いを掻き乱す様にしてしておきながら、最後には必ず今までの悩みなど有耶無耶にしてしまう様な口付けで以て自分を黙らせてしまう。
でも、今の事でハボックにも一つだけ分かった事があった。
―― 多分ヒューズは何かを誤解している・・・だってそうだろう?自分は別に他の誰に愛されようがそんな些細な事には何の関心もない。
何故ならばそう、自分は他の誰でもなく、たった一人、中佐にさえ愛されているならば、唯それだけで十分なのだから・・・!!
――― 窓の外の陽気は、初夏を通り越して既に夏のそれ・・・
ああ、だからこんな日は『水浴び』だって悪くない。
END.
writen by 華月 しのぶ 2004.7.8. 脱稿 2004.7.15. 改稿
<おまけ ~ハボック少尉が、病院を退院した訳~>
「ハボック少尉・・・その、林檎でも剥きましょうか?」
その日、面会に来たはいいものの、気拙そうにしていたヒュリー曹長がそう言って、ベッドサイドの床頭台に載っていた果物籠から、真赤に色付いた林檎を取り出すと、手近にあった果物ナイフで皮を剥き始めた。
ハボックは最初、ボーッとした様子でその手元を眺めていた・・・が ―――
イライラ、イライラ、イライラ...
次第にその顔に焦燥にも似た色が浮かび始める・・・否、これは最早心配である!
(うわ~、いつかぜって~お前、指切るぞ、フュリー?)
「・・・あっ・・・」
――― そうして、案の定、フュリー曹長は指を切った。
「あ~っ!ちょっと、手ぇ貸せ、フュリー。」
そう言いながら、ハボックはフュリーの指先の傷の深さを確認してから、うん、この程度なら大丈夫と判断すると、次の瞬間 ――― パクリ・・・と、その指を咥えこむ。
「ハ、ハボック少尉!?」(うわ~、少尉ってばまつ毛長い・・・)
フュリーの混乱した頭は、いま目の前の状況を把握しきれていない。
瞼を縁取るまつ毛の事だけ・・・(>いいのか、それ?なんか間違ってるゾ?)
「よしっ。これで止まった。」
(>注意:だからこそ、彼の頭に浮かんだのは全くの別な事・・・そう、自分の指の傷を舐めてくれる上官の、その伏せられた良い子の皆さんは、絶対真似しないで下さい!口腔内は、実は雑菌だらけです!!)
ハボックは傷口の止血を確認すると、無傷な方の手で今度はフュリー曹長の手から果物ナイフを取り上げる。と、次に剥きかけの林檎も同様に取り上げると、左手で器用に剥き始めた。
「・・・!?しょ、少尉?」
「ん~?別に肩を挙げなきゃ、右手だってこれ位は使えるぞ?」
ハボックはそう言って、不可思議な形に一部変形した林檎を、フュリーの目の前に差し出した。
「・・・左手・・・使うの上手いですね?」
「うっ!・・・って、前にフュリーには、オレが左手使ってる所は見せただろ?」
ハボックは一瞬、しまった、と云った風な表情を浮かべた後、左手の中の果物ナイフを ――― 投げた。
タン!と、その時、小気味の良い音がした。
えっ?となったヒュリーが、投じられたナイフの先を見る ――― そこには・・・
「 ――― って、嘘・・・!?」
いつの間にか、お見舞い品の山が積まれていた机の上の壁に、その蜘蛛は『果物ナイフ』によって絡め捕られていた。
しかし、その大きさは普通の蜘蛛とは明らかに違っていた ―――
「まったく・・・病院って所も結構物騒になったもんだ。」
ハボックは事も無げにそう呟くと、退院の準備をすべく手元にあったナースコールを押した。
おしまい。
*まぁ、一応狙われ易い立場にはいる、と云うことで・・・(笑)
『あとがき』と云う名の言い訳
え~と、如何だったでしょうか?
いま思えば、12禁ぐらいには指定していいんでしょうか...と云うようなお話ですね。
こちらはタイムテーブル的には、ヒューハボ祭りのお題『共闘』Back to back の続編になっておりまして、しかもその後の流れで『七夕特別企画』願い事、へと続きます。
そう・・・華月の作品って、一応時間の流れが決まってるんですよ(笑)。
フフフ...捏造設定『西方の魔女』にも通じている辺り、華月のこだわりだったりします。
まぁ、そんなこんなで、これからのヒュハボの方向性はこんな感じで進んでまいります。
でも、行き着く先は・・・どうなるんでしょうね?
http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=isisu
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